【シナリオ雑記】長編のお話
シナリオライターをやり始めて、いろんな長さのシナリオを書いてきた。
短いものだと1本500字、長いものだと1本約15万字。どれもゲーム内で配信される大切なシナリオであることには間違い無いのだけれど、やっぱり得手不得手というのはある。
私が、どうやら自分は長編が苦手らしいと気づいたのは長編を4本書いたあたり…ライター生活3年目くらいだったと思う。
私の場合、15万字のシナリオを『素案▶︎プロット▶︎本稿 』と仕上げていくのだけれど、期間は約2ヶ月。週休2日で書くと、約40日で完成まで持っていく必要がある。
ちなみに歴史ものや特殊な職業ものについては、下調べも込みでこの時間で、多少スケジュールが倒れることもあるが基本的にはこの期間、私は長編以外の作業を全てストップする。
長編は、 いわば人ひとりの人生を作る、ということだ。とにかく細やかに気を遣わなければならない。長い分、適当に組み上げることもできない。辻褄を合わせるのもなかなかに大変だ。
けして作家としてこの作業が嫌いなわけではないのだけれど…弊害として、私は長編をやっているとどうしても体調が悪くなる。
眠れない。眠れても仕事が終わるまでは常に頭が起きているようなそんな感覚が2ヶ月続く。わりと気が狂う。
ライターには、第三者目線で冷静に物が書けるタイプと、神経が世界感に引きずり込まれるタイプがいる、と思っている。
どちらかというと、私は後者だ。セリフの助動詞1つで吐くほど悩む。
パソコンの前に座り、モニターを見るというよりは、その奥の世界を見る。
目の前で行われているアニメーションを全て書き取っていくようなかんじだ。会議の速記者に近い。
ただ、そうなるにはスイッチが必要で、私の場合は素案を書く前に、頭を一度現実世界からフィクションに切り替える必要がある。
切り替え方は簡単で、全てのインプットをやめる。出来る限り他の人が書いた文章は読まない。見ない。
資料を叩き込む以外の全ての情報を頭から追い出して、いわば精進潔斎した状態で挑みたいのだ。
朝、起きたら仕事場に行くまでは毎日同じ曲を聴く。音楽で頭を「長編を書くぞ」モードにし、仕事場に着いたらいきなり原稿に向かう。
これを繰り返すこと2ヶ月。できるなら、服も選びたくないし、全神経を長編に向かわせたい。
化粧なんて文明は長編の前では死んだも同然だ。友達と遊び倒す日以外にするものか。そんなことにカロリーは使えない。
アスリートみたいだねと言われたことがあるが、わりと近いのかもしれないな、と思う。でもそうしないと書けないのだからやらざるを得ないのだ。
私は、たぶん他の人よりも数倍飽きっぽい性格で、2ヶ月同じ長編を書くという作業自体に向いていない。
「あんたの顔なんか見たくない!」と1日長編をほっぽり出す日もあるし、ぜんぶボツにして書き直したいという感情とも常に戦っている。
長編を毎日コツコツ書いてる人、気が狂わずに書ける方法があるのなら教えてほしい。と思うくらいにできない。
そんなこんなで、吐きそうになりながら40日かけてお話を産む。十月十日よりはだいぶ短いけれど、それでもいろんなところがぼろぼろになる。
そんなとき、壊れかけた身体にあたたかい感想がしみて、もう2度とやりたくないと思うのに、また書いてしまう。たぶん、これはもう中毒だ。
長編が嫌いだ。苦しいし、悲しいし、めんどくさいし。とあるキャラクターの手紙を書いている時なんか涙が止まらなかった。
でも、ジブリの偉いおじさんが言っていた。
世の中の大事なことって、たいていめんどくさいんだと。
だから、めんどくさい、やりたくない、嫌だ。と言いながら、たぶんまた次もやるのだ。
私は長編が嫌いだけれど、きっと。誰かの感想が届く限り、書き続けてしまうのだ。